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大阪高等裁判所 昭和35年(く)104号 決定

少年 H(昭一八・二・五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、少年と本件被害者のT子とは双方の親達が将来の結婚を許していた仲であつて、原決定において本件の共犯者と認められた、○ユ○公ことN、A、K等に少年の婚約者であるT子に対して肉体交渉を許すはずはないのであり、少年はT子と二人で堺市○○町東○丁×番地○○寺境内において話し合つているうち、二人の間にはすでに過去に一度肉体関係があつたのでどちらから誘うともなく肉体的交渉をもつたところ、その行為の終了直後にNらの一行が現われ、少年の眼の前でT子を押えつけようとするので少年はその非をなじろうとしたが、Nらは少年に向い、お前は引つ込んでいろとおどかし、少年はかねて同人らが刃物をもつていることを知つていたのでその場から引きさがらざるを得なかつたのであつて、少年と同人らとの間には何等共謀関係はなく、原決定は事実を誤認したものである。また少年は本件事件当時は無職であつたが、現在では少年の義兄Sが責任者となつている工場に就職させることに話が決り、少年の家族はもとより親族一同も少年の保護監督に努力しているのであつて、少年自身もNらの不良とは今後一切関係を断ち切ることを誓約しているのであるから、少年を少年院に収容するよりもむしろ少年の家庭において保護監督することが適当である、というのである。

よつて、調査すると、本件記録、特にT子、N、A、Kおよび少年の司法警察職員に対する各供述調書、昭和三十五年十一月二日付K、Aおよび少年の検察官に対する各供述調書、医師天川一信のT子に対する診断書謄本によると、少年は昭和三十五年十月十五日午前七時三十分頃堺市○○町通称○○公園内においてF、Y、Eらと予てから知り合いであつたT子(当十三年)を共同して強いて姦淫せんことを共謀し、同町東○丁×番地所在の○○寺で遊ぶ旨伝えて同女を連れ出し、途中で出会つたN、A、Kらにもその意思を通じたうえ右○○寺境内にいたり、同日午後十時頃右境内石橋附近において右T子に対し少年において「やらせ」と申し向け拒絶されるや矢庭に同女を背部に押倒し馬乗りになつてその反抗を抑圧し、少年、A、N、Kの順に強いて同女を姦淫しその際同女に処女膜裂創の傷害を与えたことが認められる。少年の司法警察職員に対する供述調書には少年は同女を他の男には関係させたくなかつた旨述べられているが、右の供述は前記各証拠から認められる本件非行当時の情況に照らしにわかに信用しがたい。また少年は同女とは顔見知りで将来は結婚するつもりであり、本件の十日程以前にすでに同女と性的関係があつたと原裁判所の調査において述べているのであるが、前記T子の司法警察職員に対する供述調書によれば、同女は本件当時まで何人とも性的関係を結んだことはない旨を述べているのであり、仮りに少年と同女との間にすでに性的関係があつたとしても、少年がA、N、Kらと共謀して前記認定のごとく四名において同女を強いて姦淫した以上原裁判所の事実認定には何等違法の点は認められないのである。そして、本件記録ならびに添付の少年調査記録を調査すると、少年は原決定記載のごとく本件非行以前すでに、暴行および万引の非行により再度原裁判所において少年および保護者を呼出し調査の結果訓戒のうえ審判不開始として終局されたのであるが、その後さらに本件非行を犯したものであつて、特に本件は年少婦女を集団で姦淫したもので罪質情状共に悪質である。少年の生育歴、性行は原決定に記載されたとおりであつて、その資質面においては、小学校当時から自主性と根気がなく無気力であつて、少年鑑別所の鑑別結果によれば知能低く、心性の未熟が著しく社会適合への生活意識に欠け家庭外に心的安住を求める傾向を示すと共に不良交友から非行親和へ発展する素地を形成しつつあつたことが認められ、これらのことと原決定に記載のごとき少年の家庭環境、近隣環境から受ける環境的影響を併せ考えると、少年はその生育途上において形成された前記資質上の欠陥が環境的影響によつて家庭外における不良交友からさらに非行親和に発展してきたものと認められ、しかも少年の保護者においては本件以前の前記二回にわたる非行にもかかわらずこれを契機として格別の補導的配慮を加えてきた形跡は認められないのであつて、在宅補導の方法によつて実効を期することは、ほとんど期待することができない段階にいたつているものと考えられ、この際少年に対しては収容保護の方法により紀律ある団体生活を通じて少年に欠けた中学校の必要教科を与えると共に現環境から隔離して過去の生活傾向および各非行への反省と将来の自覚をうながすことが少年の健全な育成を計るために必要であると認められる。したがつて、原裁判所のなした少年を中等少年院へ送致する旨の決定は相当であつて、本件抗告はいずれもその理由がない。

よつて、少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 塩田宇三郎 裁判官 青木英五郎)

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